八月廿六日(土)乙酉(舊七月五日 曇り夕方黑雲一時小雨

 

今日の讀書・・永井路子著 『大鏡』 (岩波書店 古典を読む11) を讀み終へました。好奇心を滿たしてくれただけでなく、最近讀んだピンポイント的な歴史が、みなつながつてきたのです。 

『大鏡』 は、學術文庫本で數年前に讀んだのですが、單獨に讀んだからでせう、すぐに忘れてしまひました。その點、今回は、『日本紀略』 の讀書を軸に、『源氏物語』 の時代、『今鏡』 の時代などを念頭において讀んだので、だいぶ身についたやうに思ひます。 

とくに、次の指摘には瞠目させられました。

 

『大鏡』 は、「本紀」と「列伝」とに分けた構成をもつ 『史記』 を下敷きにしたのではないか、といふこと。 

『大鏡』 は、道長の二人の妻たちの、「倫子系(『望みしは何ぞ』で言へば、鷹司系)より明子系(同、高松系)に好意的」に書かれてあるので、筆者は、(明子の三男)藤原能信か、能信に好意的な人間とみることができる、との指摘。『望みしは何ぞ』 を讀んだあとなので、たしかにそのやうに思ひます。ちなみに、永井路子先生の 『望みしは何ぞ』 は、『大鏡』 の十二年後に書かれてゐます。 

そして、『大鏡』 の、「こぼれ話」を集めた「昔物語」と呼ばれる六卷は、『今昔物語集』 や 『宇治拾遺物語』 などの説話への橋渡しとして、一つの存在意義を持つものかもしれない、なんてところは、ますます他の文學や歴史とのつながりができてきて、胸がわくわくです。 

 

さうだ、昨日、どうでもいい本を買ひあさつたと書きましたが、調べてみたら、いやなに掘り出し物だつたやうなんです。

 

一つは、貝原益軒著 『冥加訓』 です。和本の五册本です。享保九年(一七二四年)、大阪で出版された心学書。内容は、備前藩の藩儒であった著者が、日常の道徳をわかりやすく説いたものです。全部讀み通さなくても、いい言葉にめぐり會へさうなので、時々ぺらぺら目を通してみませう。例へば、次のやうな名言を書いてゐるやうなんです。 

「知っていてもそれを行動に移さないのであれば知らない者と なんらかわりは無い。」 

「自ら楽しみ、 人を楽しませてこそ人として生まれた甲斐がある。」 

この 『冥加訓』、ネットで調べたら、貝原益軒の生まれた福岡の古書店では、十萬八千圓してゐました! それが、二五〇〇圓。ウヒヤーですね。掘り出し物としておきませう。 

 

それと、『嶋原紋日朱雀諸分鑑 下』 です。和本で、もともとは二册揃ですが、まあ、覗いて見るには十分でせう。といふのも、内容は、嶋原の評判記なんです。 

それで調べてみました。「中仙道を歩く」で、飯盛女や遊女について調べたときの參考書の山のなかに、小野武雄著 『吉原と島原』 (講談社学術文庫) がありました。以下は、その中の 〈島原遊女の気儘さ〉 の一節です。 

 

「吉原の遊女が厳しく束縛されていたのにくらべ、京島原・大坂新町の遊女たちはかなりの自由を味わっていた。その違いは京都の遊女の長い歴史的背景とそれがない吉原との違いによる。延宝九年(一六八一)版 『嶋原紋日朱雀諸分鑑』 の一節に紋日を説明する条があるが、それを見ると、往時の遊女の自由ぶりが目に浮かぶ。 

 

ある田舎の人いふ。島原の詞に紋日といふは、何たるわけぞや。 答へていふ。これを知らぬは野暮なり。 

むかし六条に遊女のありし頃は、遊女の身持気儘にて、洛中洛外にもたやすく徘徊せしなり。さるゆゑに揚屋の参会気づまりな折は、春は更なり、夏秋の頃も、祇園林なんど、所々に花紅葉のもとに、幕張り廻して遊びけるなり。ことに朔日節なんど、よしある日にはなほ(多く)出でるなり。 

 

 遊女の野遊びは、京なればこそであって、江戸吉原にはその慣習はなかった。気に入らないからといって、客を揚屋に残したまま、野遊びに行ってしまうとは、江戸の遊女屋・遊女には全く考えられないことであった。江戸の遊客の主体が武士であったからにもよる。 

江戸の遊女に許された自由外出は、時折、近くの神社仏閣への参詣くらいであった。それも、上級遊女だけであった。」 

 

最後は、『ひぐらし』。『ひぐらし帖』 とも言はれてゐるやうです。古書店の説明書きによりますと、「著者名:菅原通済序 白幡よし解説 出版元:聚楽社印刷 影印 刊行年:昭23。 もとは吉田丹左衛門蒐集品の手鑑 『日ぐらし帖』、安田善次郎愛蔵の後、菅原通済が所蔵。この中から更に名品を選び、原家、関戸家其他諸家旧蔵の尤品を加え三十一葉の 『ひぐらし帖』 となしたもの。高野切第一種〈みやまにはまつのゆきたに‥〉他。価格20,000円」。あれ~、ですね。ぼくはこれを三〇〇圓で手に入れました。もちろん古びてはゐますが。 

 

今日の寫眞・・昨日求めた、掘り出し物一覽! これらは、古書市であればこそ出會へた名著でありまして、探して得たのではないところが不思議でもあり、これ以上の喜びはありません。 

それと、小野武雄著 『吉原と島原』 (講談社学術文庫) と、『嶋原紋日朱雀諸分鑑 下』 の冒頭。ちやうど、引用部分がほとんど記されてゐます。くづし字のお勉強になりますねえ!