正月一日~卅一日 「ひげ日記抄」

 

二日(水) 《東京散歩》、〈コース番號28〉を歩く。「ミュージアムめぐり 向島・押上ミニ博物館 本所吾妻橋駅~東あずま駅」。正味、一五六二〇歩 

三日(木) 『尾州家河内本源氏物語 〈桐壺〉』(日本古典文学会) 讀み進む。靑表紙本より意味が通りやすいなんて聞いてゐましたが、さうでもありません。變體假名は、なれてしまつた靑表紙本よりずつとむずかしい。ちよいとひねくれてゐる感じがする 

十二日(土) 發熱、慈惠醫大病院で檢査をしたら、インフルエンザと判明 

廿日(日) 父の妹、道子おばさんが今日で滿一〇〇歳! 

廿一日(月) 《東京散歩》、〈コース番號29〉を歩く。「御利益探訪 下谷 鶯谷駅~三ノ輪駅」 正味、六一一〇歩 

廿二日(火) auショップ上野廣小路店を訪ね、携帶電話の機種を變へる 

卅日(水) 川野さんと東博と東京都美術館に行く。東京國立博物館では 《顔真卿─王羲之を越えた名筆─》 を、東京都美術館では開催中の 《書海社展》 に出展され、「書海選奨賞」をとられた楓さんの作品を見るためでした。 

《顔真卿》展で二つのことを發見しました。一つは、漢字が「福」ではなく「福」、「眞」ではなく「真」などのいはゆる新字體が使はれてゐること。これには使ひ分けがあつたのか、それとも嚴密な區別はなく並行して使はれてゐたのかどうか。 

二つめは、漢文の羅列のなかに突然「ふ」や「か」や「ち」などの〈變體假名〉を發見したことです。それは、漢字の草書體であることがすぐに理解できましたが、それなら、我が國の平安時代の假名文字は獨創的な創作ではなく、唐時代の漢字の草書體を利用したり參考にしたものにすぎないのかどうか。まあ、漢字(葉假名)をくづせばいはゆる變體假名になるといふことはわかつてはゐますが、唐時代の漢字との關はりがどうなつてゐたのか、氣になります 

卅一日(木) 慈惠醫大病院・循環器内科に新年初の通院。この一年、診察が午後であつたために大不便。次回からは午前中にお願ひしたら、四月から産休でおやすみしてゐたミカ先生が再び擔當してくれることになり、言つてみるものだなあとわれながら感心してしまふ 

 

 

正月一日~卅一日 「讀書の旅」

 

今月は新年を迎へたといふこともあつて、《變體假名(和本・複製・影印)で日本古典文學を讀む》 ことを念頭に讀書をはじめましたが、新年早々インフルエンザをうつされて、突然揚力を失つてしまひました。まあ失速した場合には、ぼくには心を浮き立たたせてくれる面白本がひかへてをりますので、どうにか持ち直すことができましたが、體調を考へると、悠長なことも言つてられません。 

 

正月一日 柳田聖山編 『一休骸骨』 (禅文化研究所) 

正月一日 富士正晴+柳田聖山 「脱線・骸骨談義」 (『一休骸骨』 別冊 所収) 

正月四日 船戸与一著 『藪枯らし純次』 (徳間書店) 

正月六日 高嶋哲夫著 『イントゥルーダー』 (文藝春秋) 

正月八日 紫式部著 『源氏物語〈桐壺〉』 (尾州家河内本 日本古典文學會) 

正月八日 木田 元著 「快刀乱麻を断つ」 (中野三敏著 『写楽 江戸人としての実像』 中公文庫 所収) 

正月九日 『説教かるかや 上』 (寛永八年・一六三一年刊 その複製) 

正月十三日 小島政二郎著 『葛飾北齋』 (旺文社文庫) 

正月十四日 高嶋哲夫著 『ファイアー・フライ』 (文春文庫) 

正月十四日 藤沢周平著 「溟い海」 (『暗殺の年輪』 文春文庫 所収) 

正月十五日 今東光著 「北斎秘画」 (『北斎秘画』 徳間文庫 所収) 

正月十五日 今東光著 「写楽の腕」 (『北斎秘画』 徳間文庫 所収) 

正月十七日 浅黄斑著 『芭蕉隠密伝 執心浅からず』 (ハルキ文庫) 

正月十九日 黒川博行著 『泥濘』 (文藝春秋) 

正月十九日 『説教かるかや 中』 (寛永八年・一六三一年刊 その複製) 

正月廿一日 高嶋哲夫著 『ミッドナイトイーグル』 (文春文庫) 

正月廿二日 北方謙三著 『抱』 (講談社文庫) 再讀 

正月廿四日 森詠著 『七人の刺客 剣客相談人8』 (二見時代小説文庫) 

正月廿五日 『説教かるかや 下』 (寛永八年・一六三一年刊 その複製) 

正月廿六日 水上勉著 『説経節を読む』 (そのうち 「二、かるかや」 岩波現代文庫) 

正月廿六日 『切利支丹退治物語 上』 寛永十六年・一六三九年刊 その複製) 

正月廿七日 森詠著 『必殺、十文字剣 剣客相談人9』 (二見時代小説文庫) 

正月廿八日 『切利支丹退治物語 中』 寛永十六年・一六三九年刊 その複製) 

正月廿九日 川村二郎著 『孤高 国語学者大野晋の生涯』 (集英社文庫) 

正月廿九日 『切利支丹退治物語 下』 寛永十六年・一六三九年刊 その複製) 

正月卅一日 『無難禅師法語』 (寛文六年・一六六六年 その寫本) 

                                (赤文字は變體假名本) 

 

*今月は、『四郎乱物語』(天草切支丹館館長・亀井勇編、一九七三年 和装) をはじめ、『吉利支丹退治物語』(初版の原題は『吉利支丹物語』) や 『伊曽保物語』、『邦訳日葡辞書』 のキリシタン關係の複製・影印書等が手に入る。

 

尚、『吉利支丹物語』 は、京都で出版された排耶書で作者不詳。弘治年間(一五五五―五八)のキリスト敎の傳來、キリスト敎と佛敎との宗論、キリスト敎への迫害、天草・島原の亂などを虚實とり混ぜて記したもので、幕府の鎖國政策を正當化し、キリスト敎邪宗門觀を民衆に廣める立場で書かれてゐますが、佛教僧侶への批判も記されてゐて興味深い。

 

さらに、讀みはじめた飯島和一さんの 『黄金旋風』 が、キリシタンとも關係してゐるやうで、先が樂しみ。

 

また、小島政二郎著 『葛飾北齋』 によつて、北齋とともに小島政二郎への關心が高まる。《東京散歩 〈コース番號29〉》 を歩いてゐて出會つた、一葉公園に建つ〈樋口一葉記念碑〉は、「菊池寛撰 小島政二郎補並書」といふものでした。