正月五日(土)舊十一月卅日(壬寅 晴

 

今年初のご出勤。神田と高圓寺の古本市に行つてまゐりました。 

東京古書會館のはうは、最近の傾向のままに、あまり面白味はありませんでした。いづれ役立つだらうなと思はれて購入したのは、『馬場あき子と読む 鴨長明 無名抄』(短歌研究会) くらゐなものです。古書店街がまた七日から開店するところが多く、素通りして高圓寺に急ぎました。 

ちかごろ、むしろ高圓寺の西部古書會館のはうが掘出し物が多くて、今日は久しぶりに宅急便で送つてもらふほどの収穫でした。

 

まづ、『地獄草紙・餓鬼草紙』 です。これは、先年京都國立博物館で開催された国寶展でその本物を觀たことがあるので、五〇〇圓といふ値段を見て思はず手にしてしまひました。が、三〇センチ四方、厚さが四センチもある「折本」ですので、持つて歸るにはたいへんだなと思つてゐたら、つづいて、『室町時代物語集』 が全五冊ならんんでばら賣りされてゐたではありませんか。それも一册三〇〇圓。これはあまりにも高價で購入を手控へてゐたのに、これこそ掘出し物でした。全卷で一五〇〇圓、一册だけでも三〇〇〇圓から五〇〇〇圓はくだらない、例の横山重さんが校訂編集された實に貴重な本なのです。 

それと、これは何だと思つて手にしたのは、『四郎乱物語』 です(註)。和装本で厚さ三センチある、寫本の複製本です。「島原の乱の状況をくわしく記した軍記物語」だといふので、これも求めたら、宅急便で送るのにふさはしい量になつてしまひました。

 

送つてもらふ手續きをして歸らうとしたときに目についたのが、まつたく傾向の異なる、高嶋哲夫著 『イントゥルーダー』 でした。帶に、サントリーミステリー大賞・読者賞ダブル受賞作とある上に、北方謙三と淺田次郎のお二人が絶賛してゐるとなれば買はないわけにはいきませんでした。そしてそのはづです。歸宅して讀みはじめたら、ついに夜中の三時半まで、風呂とトイレで中斷した以外、322頁を一氣に讀んでしまひました。このやうな興奮は、どうしても古典文學には缺けるものがあるので、ときどき讀まずにはゐられません。 

 

註・・・『四郎乱物語』 (天草切支丹館館長・亀井勇編、本渡市立天草切支丹館振興会、1973. 函付 本体和装 限定版) 天草島原の乱の状況をくわしく記した軍記物語で、7冊からなっています。旧福連木村の庄屋尾上家に伝わっていたもので、作者は上島の神官であるという説があります。年代も確かなことは不明ですが、ほとんど同じ内容の「四郎記」という史料が熊本大学図書館にあり、「文化2(1805)年之を写す」と書かれており、また、上田宜珍が「天草島鏡」の中の「天草風土考(享和2(1802)年脱稿)」の中で、四郎記から引用していることを考えると、この物語の原本がすでに享和2(1802)年以前にできていたことが推定されます。 

この 『四郎乱物語』 も写本であると思われますが、四郎の活動のようすはもちろん、乱の経過とその間に現れる幕府方、宗徒側の人物の動きやエピソードを記し、第4・5巻には番代三宅藤兵衛の奮戦と最後のようすを記してあります。天草の乱を題材にした軍記物は、島原半島でも数点書かれているが、この本は特に天草で書かれたということで、その信憑性も高く貴重なものです。

 

今日の寫眞・・・『地獄草紙・餓鬼草紙』 と 『四郎乱物語』