十二月十六日(月)舊十一月廿日(丁亥 晴

 

夕べはよく寢られたやうで、氣分もよく過ごせた。それでも横になるとうとうとしてしまふ。

 

『源氏物語〈少女〉』 と 『一遍上人─旅の思索者─』 を讀み進む。〈少女〉のはうは、祖母・大宮のもとで一緒に育てられた源氏の息子・夕霧(母は葵上)と、内大臣(もとの頭中將・葵上の兄)の娘・雲居雁が、夕霧が成人したことによつて引き裂かれ、會ふこともできなくなるので、お互ひに嘆く場面がいぢらしい。 

 

 

十二月十七日(火)舊十一月廿一日(戊子 氷雨

 

自動車免許更新日が近づいたので、先日屆いた講習案内に從つて、「高齢者講習受講」のため、最も近い平和橋自動車教習所に電話をして、一月の中旬に受講日を決めた。 

それから、綾瀨驛から今日は土浦に向かひ、〈つちうら古書倶楽部の古本まつり〉を訪ねた。小雨が降るとても冷える日だつたが、建物の中はあたたかかつた。けれども、店内はあまり代り映えせず、晝食をはさんで探したが、宮内庁三の丸尚蔵館編集の 『絵巻‐蒙古襲来絵詞、絵師草紙、北野天神縁起』 と、文庫文三册を探し當てただけ。早々に歸路につく。三八六〇歩。

 

列車のなかでも讀み進んだけれど、それにしても、一遍といふ人物は不思議な、といふか複雑な人である。栗田勇さんの 『一遍上人─旅の思索者─』 を讀んでゐるからさう感じるのかも知れない。とにかく、師とも呼ぶべきだらうに法然さんとも路線を異にし、善光寺に影響されたか、と思ひきや、高野山にもこもり、かと思ふと熊野に入り、栗田さんは、「一遍の姿には、なによりも、宗教的なるものの起源に迫ろうとする意志だけが、ひとすじ貫かれているのを痛感する」と言はれる。つまり、神社や山嶽佛教もふくめてあらゆる在來の宗敎と宗教的なるものを體感していこうとするところがあるらしい。その姿が、「一遍聖繪」には描かれてゐるのだらうが、よくもそこまで讀み取れるものだと感心してしまふ。

 

 

十二月十八日(水)舊十一月廿二日(己丑 くもり日中晴

 

今日の散歩は、西方にした。ここのところ西や東とあわただしいが、どうせなら古本市めぐりや名所を訪ねて歩きたい。で、今日は、妻は妻で出かけたので、京成で町屋驛乘り換へ、新御茶ノ水驛から快速で吉祥寺驛へ向つた。 

パルコの二階で〈吉祥寺パルコの古本市〉が開催されてゐたので出かけたが、まあ期待はしてゐなかつたとはいへ、収穫ゼロ。晝食をはさんで、驛南の古本センターに入つたら、佐々木譲の 『警官の掟』 (新潮文庫)が目にとまつた。本作はシリーズものではなく、「単発の警察小説である」とあつたからだ。シリーズものだと、今はちよいときつい。またいつ移動したのか、驛北に移つたブックオフと驛前の外口書店をのぞいたけれども目にとまるものもなし。それでも、五〇八〇歩だつた。

 

さう、昨日求めた、藤原智美著 『暴走老人!』 を持つて出たのだつた。あれまあの世界だが、ぼくにも心當たりがある。解説の嵐山光三郎さんなんか、「この本の初版を読んだとき 『これは私のことだ』 と思った」といふ。さもありなん。 

 

 

十二月十九日(木)舊十一月廿三日(庚寅・下弦 曇天時々霧雨

 

今日は靜かに讀書。藤原智美著 『暴走老人!』 讀了。内容はといへば・・・「役所の受付で書類の不備を指摘され、突然怒鳴り始める。コンビニで立ち読みを注意されて逆ギレし、チェーンソーで脅しをかける。わずかなことで極端な怒りを爆発させる老人たちの姿から、その背後にある社会や生活意識の激変を探り、人間関係の問題を指摘して、『暴走老人』の新語を世に定着させた話題の書」 

まあ、背後にある社會の變化はたしかにおつしやる通りだけれども、ぼくもついキレさうになることがあるので、他人ごとではないと肝に銘じた。 

 

また、『源氏物語〈少女〉』 を讀み進む。幼なじみで相思相愛の仲を裂かれて、別れ別れにされる夕霧と雲居雁が、乳母のいきなはからひで會ふことができた場面がじつにすばらしい。どうすばらしいかといふと、この二人、じつに純情なのである。桐壺からはじまつた 『源氏物語』 のなかでこのやうな純な男女の場面があつたであらうか。まあ、それほど父・光源氏の女狂ひがすさまじいといふか、まるでレイプとしか思へないこともしばしばであつた。ぼくはこのふたりが氣にいつてしまつた。以下、与謝野晶子譯でその部分を書きだしておく。 

 

「若君(夕霧)は几帳の後ろへはいつて來て戀人(雲居雁)をながめてゐたが、人目を恥じることなどはもう物の切迫しない場合のことで、今はそんなことも思はれずに泣いてゐるのを、乳母はかはいさうに思つて、宮へは體裁よく申し上げ、夕方の暗まぎれに二人をほかの部屋で逢はせた。きまり惡さと恥ずかしさで二人はものも言はずに泣き入つた。『伯父様の態度が恨めしいから、戀しくても私はあなたを忘れてしまはうと思ふけれど、逢はないでゐてはどんなに苦しいだらうと今から心配でならない。なぜ逢へば逢ふことのできたころに私はたびたび來なかつたらう』 と言ふ男の樣子には、若々しくてそして心を打つものがある。 

「私も苦しいでしやう、きつと」 

「戀しいだろうとお思ひになる」 と男が言ふと、雲井雁が幼いふうにうなづく。 

 

夕霧十二歳、雲居雁十四歳。なんていぢらしいのでせう。 

 

 

十二月廿日(金)舊十一月廿四日(辛卯 晴

 

今日はグレイの手術日。不妊の處置をほどこす時期になつたからだ。大きくなればそれだけつらくなるといふ。で、朝、食事ぬきで中村莊のネコ部屋に移し、病院へつれて行くまで自由にさせておいた。が、つれて行くときにはなんだか可哀そうで、でも仕方ないとあきらめた。 

夕方、妻が連れて歸るまで氣が氣ではなかつた。そして案の定、部屋に解き放たれても、まだ麻酔がきいてゐるらしくてふらふらふらと腰がさだまらず。出してあげた食事も、腹這ひになつて食べてゐた。ココのときにはちつとも氣にしなかつたのに、なんていふこつた! 

でも、だんだん元氣をとり戻し、ぼくの胸のなかで休んでゐたかと思ふと、すぐにとび回りはじめた。 

 

また本の整理を急ぐ。大工さんが今度の月曜日に來てくれることになつたからだが、今日は寢室の掃除をかねて、積み上がつた本をかごにつめる。なにはともあれ、運んでもらへるやうにかごに入れなければならない。 

 

 

 

十二月一日~卅一日 「讀書の旅」   ・・・』は和本及び變體假名本)

 

十二月四日 紫式部著 『源氏物語二十〈朝顔〉』 (靑表紙本 新典社) 

十二月四日 『宇治拾遺物語 卷第一』 (第一話~第十八話) 

十二月五日 佐々木譲著 『代官山コールドケース』 (文春文庫) 

十二月七日 山本登朗著 『伊勢物語 流転と変転 鉄心斎文庫が語るもの』 (ブックレット〈書物をひらく〉⑮) (平凡社) 

十二月七日 觀世左近著 『井筒』 (觀世流大成版 檜書店)  

十二月八日 深澤七郎著 『みちのくの人形たち』 (一九七九 夢屋書店) 

十二月八日 深澤七郎著 『秘戯』 (一九七九 夢屋書店) 

十二月十一日 藤沢周平著(著作順一八) 『神隠し』 (新潮文庫) 

十二月十三日 佐々木譲著 『制服捜査』 (新潮文庫) 

十二月十九日 藤原智美著 『暴走老人!』 (文春文庫)