今日一日寒かつた。讀書しようにも眠くてしかたなかつたが、それでも藤沢周平のかたはら、『宇治拾遺物語 卷第七』 をよみすすんだ。
五月廿二日(金)舊三月卅日(乙丑) 曇天のち雨 寒い
今日も寒い。かたづけた電氣あんかを出してきて、ふとんをひつかぶつて讀書。『漆黒の霧の中で─彫師伊之助捕物覚え─』 をよみ終へ、シリーズ三册めの、『ささやく河─彫師伊之助捕物覚え─』 をよみはじめる。
が、その前に、『宇治拾遺物語 卷第七』 をよみ終らしてしまつた。すると、第五話の 「長谷寺參籠男預利生事」 が、「わらしべ長者」 そのものであることがわかつて興味深かつた。といふのも、これと同じ話が 『今昔物語集』 にもあるのだが、そのはうでは、男が利生(ご利益)にあづかつたのは、長谷の觀音の靈驗としてしめくくられてゐるのにたいして、『宇治拾遺物語』 では、その部分が省かれ、事件の展開をたのしむ物語に徹してゐる。平安時代から中世への移りかはり、神がかり的な時代が、いかに世俗化された時代になつていつたかがしのべておもしろい。
五四月廿三日(土)舊四月朔日(丙寅・朔) 曇天、夕方日差し
今日も、肌寒い。からだが冷えないやうにして讀書に徹する。
五月廿四日(日)舊四月二日(丁卯) 晴
今日も讀書。『ささやく河─彫師伊之助捕物覚え─』 讀了。これは十七年前によんでゐるけれど、前の二册と同樣、まつたく覺えてゐなかつた。
五月廿五日(月)舊四月三日(戊辰) 曇り時々晴
紫式部著 『源氏物語〈野分〉』 讀了。野分(暴風)のあと、源氏が夕霧とともに六條院の「ハーレム」の女性たちを見舞ふはなし。むずかしいところのない、よみやすい文章だつた。靑表紙本で四十七頁。
つづいて、キケロの 『老境について』(ワイド版 岩波文庫) をよみはじめ、一氣によんでしまふ。カバーの折り返しにはかうある・・・「老境は青年期のあらゆる歓楽にもまさる値打ちがある。世に老境が惨めなものであるとされる四つの理由─仕事を失うこと、体の機能の低下、意欲の衰え、死への接近─を一つ一つ検証し、稔りの時を満ち足りて過ごす心がまえを説く。八十四歳のカトーが二人の若者を相手に開陳する形で述べられた、老いの重荷を楽々と背負う方法」
譯文が正字・歴史的假名遣ひで、ぼくにとつてはありがたかつたが、讀んでゐて、はたして老境の荷が輕くなり、のこりの人生を滿ち足りて過ごすことができるのかどうか、ちよいと自信がもてない。
朝、先日亡くなつた信ちやんの奥さんがこられ、しばらく話していかれる。メールアドレスをお聞きしたので、のちほど信ちやんの昔の寫眞をお送りした。
*二〇一〇年五月廿五日に東京葛飾に歸郷して、今日でまるまる十年になる。寫眞は、毛倉野の家を去る朝、それと上京の途中、根府川のあみもと大吉の駐車場にて。
五月一日~廿五日 「讀書の旅」 (『・・・』は和本及び變體假名・漢文)
二日 田中小実昌著 『ないものの存在』 (福武書店)
六日 田中小実昌著 『くりかえすけど』 (銀河叢書 幻戯書房)
十一日 田中小実昌著 『ほのぼの路線バスの旅』 (中公文庫)
十三日 田中小実昌著 『バスにのって』 (青土社)
十六日 紫式部著 『源氏物語二十六〈常夏〉』 (靑表紙本 新典社)
十七日 紫式部著 『源氏物語二十七〈篝火〉』 (靑表紙本 新典社)
十七日 殿山泰司著 『バカな役者め!』 (ちくま文庫)
十九日 藤森照信著 「今和次郎著 『日本の民家』 解説」 (岩波文庫)
廿日 藤沢周平著 『消えた女─彫師伊之助捕物覚え─』 (新潮文庫)
廿二日 藤沢周平著 『漆黒の霧の中で─彫師伊之助捕物覚え─』 (新潮文庫)
廿二日 『宇治拾遺物語 卷第七』 (第一話~第七話)
廿四日 藤沢周平著 『ささやく河─彫師伊之助捕物覚え─』 (新潮文庫)
廿五日 紫式部著 『源氏物語二十八〈野分〉』 (靑表紙本 新典社)
廿五日 キケロ著 『老境について』 (ワイド版 岩波文庫)
五月に買ひ求めた本
四日 田中小実昌著 『ほのぼの路線バスの旅』 (中公文庫)
七日 田中小実昌著 『バスにのって』 (青土社)
七日 田中小実昌著 『田中小実昌紀行集』 (JTB)