九月六日(金)舊八月八日(丙午・上弦 晴 

 

キース・ピータースン著 『幻の終わり』 讀了。面白かつた。第一彈より、こちらのはうが、ぼくとしてはよかつた。特に、主人公の記者が、殺人者に追はれてセントラルパークのなかを逃げ惑ふ場面は、讀んでゐるだけで息が切れてしまふほど。ただ、犯人がわかつたといふところで、それがどうわかつたのか、讀んでゐるはうにはわかりずらかつた。 

同時に、讀み進んできた 『堤中納言物語 〈はなたの女御〉』 もよみ終る。 

さてここで、ピータースン、その第三彈に入ろうと思つたが、早く讀んではもつたいないので、半村良さんの 『江戸群盗伝』 を讀むことにした。 

 

九月七日(土)舊八月九日(丁未 晴 

 

どうにか、それでも 『江戸群盗伝』 を讀み進む。キャラクターが面白い。「エロス! 報復! 哄笑! 盗む、ゆえに我あり!? 闇の帝王、至芸の競い合い」と、帶にあるやうに、このエロス描寫がまことにうまい。

 

「やだ、あれ・・・・・はずかしい」 

「動けよ」 

「やだ、あれ・・・・・もう」 

「好きだ。お篠」 

「やだ、あれ・・・・」 

久助はお篠に一晩中、やだ、あれ・・・・・と言わせ続けていた。しまいにお篠の体はぐにゃぐにゃになって・・・ 

ぼくがいいと思つた盗人は、たくさん登場するけれども、じべたの甚六だな。地味だけどいい。半村良さんは人物描寫がばつぐんにうまいと思ふ。

 

夕食時、「小吉の女房」の再放送を見た。そして驚いたのはお順が生まれたばかりで泣きぐずつてゐたのだ。以前見たとき、といつてもすべてを見たわけではなかつたのだが、そのときにはお順の姿を見た記憶がない。それでびつくりした。そこで思ひだしたのが、諸田玲子さんの 『お順 勝海舟の妹と五人の男』 である。すぐに書庫に飛び込んで探したら、あつた。しかも、半藤一利さんが推薦してゐた。 

 

また、ブラタモリを見た。京都御所がテーマだつたから面白く見ることができた。そこで、なぜ右京が寂びれ、左京に人々が移り住んだかといふ説明のなかに、右京には天井川があつて、それがしばしば氾濫したためだといふのに合點した。濕地帶であるとは知つてゐたが、それが天井川によるものであつたとは! それにたいして鴨川は、流れが急で、流れ出た土砂がとどまることなく流れ去つてしまふので天井川にはなれず、むしろ川底を削り取つて流れるので、さうやすやすとは氾濫しなかつたのださうだ。いい勉強になつた。

 

ブラタモリを見てゐるあひだ、モモタとココ、それにグレイに時々目を向けると、まあグレイのすばやいこと、するするとカーテンを登りきり、してやつたりと滿足顔。少し前まで同じやうに動いてゐたココが、信じられないといふかのやうに見つめてゐた。モモタはぼくにべつたりで、なでなでされるのが無上の快樂といつたところ。三匹三樣で見てゐて樂しい。 

 

九月八日(日)舊八月十日(戊申・白露 晴のち、夕方から雨、終夜暴風雨 

 

昨夜、半村良さんの 『江戸群盗伝』 讀了。存分に滿足滿足。解説者の淸水義範さんは、半村良を慕つて上京し、弟子になつた人だが、その「親方」が話してくれたことを次のやうに書いてゐる。 

「おれの仕事は詰まるところ嘘つきだ。嘘ってもんは所詮嘘で、タメになったり、値打ちがあったりしちゃ邪道だぜ。人様にいい夢を見させるのが嘘なんだ。それを忘れて、この嘘は文学でござい、なんて言いだすのは嘘つきの誇りを失った言い草だ。・・・少くとも、おれたちは地べたの庶民の味方でいてえじゃねえか。そこんところを忘れて、国家だの、権力だのの提灯持つような仕口だけはしちゃいけねえぜ」。 

と言つてゐたやうだが、『江戸群盗伝』 なんか、けつこうタメになる話だつた。

 

つづいて、諸田玲子さんの 『お順 勝海舟の妹と五人の男』 を讀みはじめる。テレビの「小吉の女房」の舞臺装置をつい思ひ浮かべてしまふが、『嘉永・慶応 江戸切繪圖』 を開いて小吉・海舟の當時の本所入江町の住所をみたら、一家が間借りしてゐた家主の岡野孫一郎の名が記されてあつた。さういへば、總武線兩國驛と錦糸町驛の中ほど、といふより錦糸町驛に近く、總武線の南側に位置するその場所を訪ねたことがあつた。 

それで、お順がどういふ人物なのか、一通り知りたく思つたら、半藤一利さんが、帶に次のやうに書いてゐた。

 

「幕末随一の元気な女性、あのお順を主人公にした小説にようやく出会いました──勝海舟の妹のお順が面白いですよ。生粋の江戸っ子で、バリバリやるもんで勝海舟も頭が上がらなかった。一八歳のときに佐久間象山に嫁いで妾や子どものいる象山の家を切り盛りし、夫亡きあとは実家に戻って、兄の勝海舟の面倒を見ています。上野戦争で官軍が勝の家を襲ったときも、隊員を説得して事なきを得たというちょっと変わった女で、幕末には珍しい。諸田さんにはもってこいかもしれない(笑)」

 

さうか、佐久間象山に嫁いだ女性だつたのだ。またどうしてなのか、ものすごく興味がわく。 

 

九月九日(月)舊八月十一日(己酉 晴 

今日は父の命日。二〇一二年のこの日の早朝、九十五歳と九ケ月で死去。すでに七年になる。堀切に來てからもラムが元氣で、毎日父との散歩を缺かさなかつた。そのラムも、二年後の六月に亡くなつた。次は、父の享年を越えた母かぼくか?

 

昨夜は終もすがら、臺風15號の接近と上陸によつて脅かされ、氣壓の推移を見てゐたら、一時に一〇一二hPaあつたものが、二時には一〇〇九、二時半には一〇〇六、三時には一〇〇二、三時半には九九九、四時には九九二まで下がつた。

 

昨夜、眠られぬままに讀みつづけた、諸田玲子著 『お順 勝海舟の妹と五人の男(上)』 を讀み終ることができた。 

 


 

 

九月十日(火)舊八月十二日(庚戌 晴のちくもり、夜雷雨 

 

終日横になつて過ごす。おかげで、諸田玲子著 『お順 勝海舟の妹と五人の男(下)』 を讀み終ることができた。これは、「自らの意志を貫き愛に生きたおきゃんな江戸娘お順の波瀾の生涯」を通して、幕末・明治維新の歴史を通觀することができる稀な本だと思ふ。 

諸田さんは生まれも育ちも靜岡の人ださうで、諸田さんの「父方の先祖が勝父子と親しくつき合っていた事実がわかった」といふのです。しかも、その家の藏から「海舟の未読の手紙」が見つかつたといふ大おまけつき。さらに、順と母の信の墓が北街道沿ひの蓮永寺にあると知り、次に訪ねたときにはぜひ詣でてみたい。

 

 

 

九月一日~卅日 「讀書の旅」    『・・・』は和本及び變體假名本) 

九月一日 半村良著 『講談 碑夜十郎(上)』 (講談社文庫) 

九月二日 半村良著 『講談 碑夜十郎(下)』 (講談社文庫) 

九月三日 半藤一利著 『戦う石橋湛山 新版』 (東洋経済新報社) 

九月四日 キース・ピータースン著 『暗闇の終わり』 (創元推理文庫

九月六日 キース・ピータースン著 『幻の終わり』 (創元推理文庫

九月六日 〈はなたの女御〉 (『高松宮藏 堤中納言物語』 所収 日本古典文学会) 

九月七日 半村良著 『江戸群盗伝』 (文春文庫) 

九月九日 諸田玲子著 『お順 勝海舟の妹と五人の男(上)』 (毎日新聞社) 

九月十日 諸田玲子著 『お順 勝海舟の妹と五人の男(下)』 (毎日新聞社)