九月廿八日(金)癸亥(舊八月十九日) 

 

今日も歩いてきました。散歩プラス古書市めぐりです。神保町から高圓寺、そして五反田の三カ所の古書會館で同時開催ですからのんびりとしてゐられません。まあ、掘り出し物があつたかどうかは二の次のことでして、やはり歩いて體を動かすことが心臟にはいいのでありますね。つくづく思ひ知らされました。とは言へ、歩いた歩數は七七〇〇歩。昨日のやうにあちこち探し歩くのと違つて、本棚にそつてよちよち歩くだけですから、ほんとうにいい運動になつてゐるかはわかりません。それでも家の中で横になつてゐるよりはましだと思ひます。

 

で、一應収穫ですが、最初の神保町では、ぼろぼろで煮しめたやうな 『しんぱんいきなどどいつ』 といふ、和紙に自分で書いて綴じたノートのやうな册子が一册。これがちよいと高くて五〇〇圓。奥書の頁に「安政元 寅年」(一八五四年)とありますから、その年に自分用の覺えを作つたのかもしれません。一頁にひとつづつどどいつが記されてゐます(註一)。 

ところが、よめるのがあるかと思つて頁をくくると、くづし文字、必ずひとつふたつ解讀不能の文字があつて、まだまだ應用力がないことを思ひ知らされます。 

今日の寫眞は、そのなかでもわかりやすいのを寫してみました。右の頁は、たぶん 「りんきしやすな ひのないひばち だれがてをだす 人もなし」。左は、だれでも知つてゐる 「をゐしやさまでも ありまのゆでも ほれたやまいハ なおりやせぬ」 でいいんではないかと思ひます。

 

それと、高圓寺で求めたのが、『とはすかたり 全』 といふ、これはほんものの江戸時代の書物です。あとで調べたら掘出し物だつたやうです。書かれたのは享保十三年(一七二八年)、中井甃庵(なかいしゅうあん)三十六歳の時の成立とありました。「和文で著した随筆集」のやうです(註二)。

 

最後に、五反田では、河北騰著 『歴史物語と古記録』 (おうふう) ですね。まづもとの値段ですが、なんと一萬六千圓もするのです。なんでそんなに高價なのかわかりませんが、國文學や歴史の學術書にはしばしば見受けられます。それが一〇〇〇圓でしたから、それだけで飛びつきました。内容は論文集で、「「吏部王記と源氏物語」 とか、「歴史物語と源氏物語の関連」 とか、「枕草子『大進生昌』段について」 とかで、榮花物語、水鏡、増鏡、愚管抄などと古記録との關係が書かれてゐて、ぼくには必須の書物ですね。十六分の一のお値段で入手といふのがまたなんともいい!

 

何度も言ふやうですけれど、實際に手に取つてみなければ、その存在すら知らなかつた書物との出會ひといふか遭遇は天のお導きとしか言ひやうがないのであります。勉強が多岐にわたつていくこともしかたがありません。お導きですからね、ぼくは柔順ですから從順に從ひたいと思ひます。

 

食事は、早めのお晝がかき揚げそば、早めの夕食が五反田のワンタン。これが美味しかつた。そして歸宅後の〆。とまあ體重もおとさないやうに、血壓を少しでも高めるやうにこまめにいただきました。めでたしめでたし。 

しかし、振り返つてみると、臺風が近づいてくると調子がよくありませんでした。低氣壓がからだには堪へるのでせうか。またやつてきましたね。一機一〇〇億圓するオスプレイを十七機買ふくらゐなら、福島原發で故郷を追ひ出された人々をはじめ、災害の被害者と被災地を根本的に救つたらどうなんでせう。 

 

註一・・・都々逸(どどいつ) 俗謡の形式名。7775426文字で男女の情愛などをうたうもの。この4句はさらに細分すると3443345となる場合が多い。その詞章は多くは即興で作られ,俳諧,川柳などと同じく大衆の即興文学としての意味もある。定型のうえに5文字1句を加えて531文字とするものや,下2句の前にほかの俗曲を挿入して「アンコ入り」と称するものなど,各種の変型がある。三味線を伴奏にする場合が多く,調子は本調子が正調である。 18世紀後半,潮来節,尾張のどどいつ節,上方のよしこの節などの形を経て江戸で完成し,天保9 (1838)81世都々逸坊扇歌が寄席でうたったのを機として流行したといわれる。

 

註二・・・『とはすかたり』(不問語)は、江戸時代中期の儒学者、中井甃庵(16931758)が和文で著した随筆集。4種の刊本あり。①寛政3年 ②無刊記 ③嘉永2年 ④大正15年。本書は、その③。 

以下、寫眞の末尾の右の頁の三行目からを活字にしました。

 

「此とはすかたりといふ書は、中井甃庵先師のかきあつめおかれけるいとめでたきふみなりけるを、父のかたみと竹山先生六十ばかりのむかし上木して世に出されけるを、いかなる禍つ日の神のまがふや、板面なかばうせて世の埋木となりぬるを、かゝる玉もの人しらずなりなむことのいといとをしけれは、こたびうせにし数をおぎなひて世にひろくせんとす。是ぞ直日の神のまもり直し給ふ幸ひならんとおもふになむ。 嘉永二酉年三月 書舗青藜主人謹識  とはすかたり終」(原文にない句読、濁点を補う) 

 

今日の寫眞・・・ワンタンのお店。『志んぱんいきなどどいつ』 と 『歴史物語と古記録』。それと、『とはずがたり』 の冒頭の漢文の序と末尾の奥書の頁。