七月卅一日(火)甲子(舊六月十九日) 晴、暑い

 

ぼくが森銑三さんを知つたのはなにがきつかけだつたらうか。たぶん、西鶴の 『好色一代男』 を讀むために調べたことがきつかけだつたかと思ひます。また、前後して、『思い出すことども』 を讀んだことがさらにひきつけられた要因ではないかと思ひます。 

どこが魅力かと言へば、森銑三さんの一途な主張とその姿勢にあると言つていいでせう。

 

「私は研究の進むにつれて、一代男(『好色一代男』)のよさをますます深く感ずる一方、一代女その他作品作品のつまらなさをも、ますます深く感ずるのである。一代女、五人女その他作品の西鶴にあらざる一事を、私は確信を以て口にすることが出來る」。と言ひ、「西鶴作の浮世草子の中で、西鶴の眞正作品として安心して取上げられるものに、一代男の一作がある」 と言ひ切つてをられるのであります(『西鶴一家言』より)。

 

當然、「西鶴研究者」からは容れられず、反發は大きいやうですが、それでも信念をつらぬいてをられるところなんてかつこいい。ちやうど、國文學會からつまはじきされてゐる、小松英雄先生を思ひ起こさせます。がんばれ! 

 

註・・・森銑三の後半生は井原西鶴の研究に注力し、『西鶴本叢考』、『西鶴一家言』、『西鶴三十年』、『一代男新考』 などを著した。 

森はこれらの著作を通じて、用語や文体などの徹底した考証検討から、浮世草子の中で西鶴作品として扱われているもののうち、実際に西鶴が書いたのは 『好色一代男』 ただひとつであり、それ以外は西鶴が監修をのみ行ったに過ぎない作品(西鶴関与作品)、または西鶴に擬して書かれてだけで関与もしていない作品(摸擬西鶴作品)だと主張した。この説は学会で正式に認知されていないが、近年に至り、西鶴の作品について森の主張を裏付ける研究成果が徐々に現れ始めている。 

 

 

*七月一日~卅一日までの讀書記録

 

七月七日 L・A・モース著 『ビッグ・ボスは俺が殺る』 (ハヤカワ・ミステリー文庫) 

七月九日 一休、編者未詳 『目なし草 一休水鏡注 全』 (和泉書院影印叢刊

七月十一日 L・A・モース著 『トリプルX』 (ハヤカワ・ミステリー文庫) 

七月十三日 唐木順三著 「一休─風狂・風流といふこと」 (『中世の文學』 筑摩書房 所収) 

七月十五日 宮内庁書陵部藏 靑表紙本 『源氏物語〈帚木〉』 (新典社) 

七月十七日 柴田錬三郎著 『忍者からす』 (新潮文庫) 

七月廿日 宮内庁書陵部藏 靑表紙本 『源氏物語〈空蝉〉』 (新典社) 

七月廿日 平野宗淨著 「一休和尚年譜の研究」 (『一休・蓮如 日本名僧論集 第十巻』(吉川弘文館 所収) 

七月廿一日 黒川博行著 『てとろどときしん』 (角川文庫) 再讀 

七月廿六日 柴田錬三郎著 『眠狂四郎孤剣五十三次』 (新潮文庫) 

七月廿九日 柴田錬三郎著 『眠狂四郎虚無日誌』 (新潮文庫) 

七月卅日 森銃三著 「塙保己一」 (『森銑三著作集 〈第7巻〉』 中央公論社 所収) 

七月卅日 森銃三著 「物語 塙保己一」 (同右)