六月廿八日(木)辛卯(舊五月十五日・望) 曇りのち晴、暑い

 

昨日歸宅後 大失策をおかしてしまひました。前の日に捕獲した子ネコ二匹を、人になれるやうにするために抱いてほしいのよ、と妻に言はれたのはいいのですが、ケージのとびらを開けて出したとたん、手のひらからするりと逃げられ、それが、伊豆からもどつて保管しておいた、鍬や鋤簾、鶴嘴、剪定鋏やスコップなどの隙間に入り込み、さんざんてこずらせた末、やつと捕まへたと思つたら、ぼくの手の甲には見るも無殘な靑痣ができてしまひました。 

 

寢ころんで、ハヤカワ文庫の 『オールド・ディック』 を讀み進みました。 

主人公のディックは、「わたしはもうすぐ七十八歳で、もうこの五年間〇〇した覚えもない」 といふ老いぼれですが、「おまえはろくでなしだが、正直なろくでなしだ。おれには、自分を欺そうとしない人間が必要なんだ」、といふ依賴主に説き伏せられて事件を擔當します。 

 

「五百ドルでいいな?」 そういって、彼はぱりぱりの真新しい紙幣を五枚差し出した。 

わたしはその金を見つめた。これでまた、あとしばらくはキャット・フードとも無縁でいられる。 

「ああ、五百ドルなら十分だ」 

わたしは首をふり、笑いだした。おかしくてたまらなかった。また仕事をしようとは。たった一晩だが、わたしは世界でもっとも老齢の私立探偵となるのだ」 

 

ところが、一晩で終はるはづの仕事が大失敗。でも、いいこと言つてゐるんです。 

 

「わたしの数少ない信念のひとつは、人間たちが苦境に立たされるのは、状況にすでに可能性として内在する結果を予想することができないからだというものである。彼らは原因と結果というものを理解できないか、もしくは想像力に欠けているため、首まで泥につかってはじめて驚く」 

 

これなど、我が國民に聞かせてやりたいと思ひました。