二月六日(火)己巳(舊十二月廿一日 晴のちくもり

 

今日から、《三省堂書店池袋本店古本まつり》がはじまりました。場所は、いつもの西武池袋本店別館二階=特設会場(西武ギャラリー)でした。一〇時半ころ着いたのですが、まあすごい人出。デパートですから、女性がうじやうじや、神保町や高圓寺では見られない光景でした。が、内容は、〈-古書と巡る古今東西-〉といふらしいのですが、ぼくの守備範圍以下といふか以外といふか、目を引くものはほとんどなくて、短時間ですんでしまひました。 

で、強ひて求めたのは、一年前に出版された本の古本で、鈴木健一著 『天皇と和歌 国見と儀礼の一五〇〇年』(講談社選書メチエ) ともう一册だけでした。この 『天皇と和歌』 は、天皇制がどうのかうのといふのとは別の次元で、我が國の歴史と文學において缺かすことができないテーマだと思ひます。いや、最近さう考へざるを得なくなつてきました。それが、神保町では高くて二の足を踏んでゐたのに、今日は定價の三分の一、それで買つてしまひました。 

それと、もう一册は、最近注目してゐる、森銑三さんの 『傳記走馬燈』 です。この人の人物評は定評があるだけでなく、ぼくなんかみんながみんなはじめてお目にかかるやうな人ばかりで、目からウロコがぼろぼろ落ちないことがありません。本書の冒頭は、「堀部安兵衛」で、「赤穂義士中の快男兒、堀部安兵衛武庸(たけつね)に就いて語らうとする。これまで知られずにゐた材料に據つて─。」と、まあ、このやうなはじまりですから、とにかく求めてしまひました。 

 

さて、古本まつりがもつと面白ければ、これで歸宅してもよかつたのですけれど、なにせつまらない。さうだ、東京散歩を歩いてしまはうとふと思ひ立つたのはいいのですが、肝心のガイドブックを忘れてきてしまつたのでありました。 

《東京散歩 じゆんの一歩一》 その第十七回目になるはづです。ガイドブックは忘れましたけれど、先日、地圖を見ながらコースを何度かたどつたので、かすかに覺えてはゐました。それを確かめるために、ちやうど三省堂が一フロア下にあります。で、地圖やガイドブック賣場に行つて確かめましたところが、ぼくのと同じのがないどころか、ガイドブックが、すべてグルメガイドやショッピングガイドに化してしまつてゐたのであります。もちろん、地圖は地圖でありますけれど、名所舊跡や記念碑、歴史的建物や古墳、それに観光スポットやトイレなどはほとんど書かれてはをりません。僕の 『山手・下町散歩』 がどれだけ貴重かを再認識した次第でした。

 

またまた、その賣場に、まつたくの偶然ですけれど、昭文社の方が來てをられて、ぼくがこれこれの本を探してゐると言つたら、それは最近絶版にしました、といふのであります。ばかな、とぼくは半分叫んでしまひました。だつて、まともなガイドブックがないではないですか、とぼくは追及してみましたけれど、空しいのと大人氣ないのでやめました。でもねえ、かうして本當の樂しみも、狭められていくといふか、方向付けられていくといふか、時代に飼ひ慣らされていくんだなあと、ぼくはため息が出ましたです。 

それで、地圖を賴りにせず、ぼく自身の記憶と、道路際に表示されてゐる地圖だけを信じて歩きはじめました。(以下、明日につづく) 

 

今日の寫眞・・池袋《古本まつり》 と、求めた本。それと、ぼくのガイドブック。