十一月八日(水)己亥(舊九月廿日 曇天

 

《東山會》 第七回例會。はじめての宿泊の旅で、山梨縣の塩山にやつてまゐりました。題して、「甲州市塩山散策」。 

朝からどんよりして今にも雨が降りさうでしたが、樂しみにしてゐた塩山散策です。氣持ちは明るく、今回の幹事の渡辺さんが調べてくださつた時間通りの電車に乘り、新宿、立川、八王子から乘つてきたメンバーと合流し、八名そろつたところで、高尾驛からは始發の松本驛行き各驛停車に乘つて塩山に向かひました。

 

塩山驛には一一時一〇分に到着。ぼくにとつてははじめて下車する驛です。北口から驛舎を出ると、驛前に いかめしいお顔の 「武田信玄公乃像」 がでん坐しまして、あいさつもそこそこに、道路をはさんで目の前にある、甘草屋敷を見學いたしました。 

すばらしく品格のある舊高野家の古民家でありまして、江戸時代には藥草の甘草を幕府に獻上してゐたので、甘草屋敷と呼ばれるやうになつたさうなのであります。ボランティアの方のお話がよくわかりました。

 

はじめから濃厚な見學でしたが、ちやうどお晝時、そばのラーメン屋ですませたあと、今晩宿泊する旅館に荷物を預け、身輕になつて散策を再開いたしました。 

昭和三十四年に開館、現在も土日には子供向け映画を上映するなど、生きてゐる塩山シネマ。長屋門が國にの登録有形文化財に指定されてゐる飯島家。守つてをられる女ご主人のお話がまた丁寧で、この松は云々、この池は心のかたちだとか、また鬼瓦が男鬼と女鬼で違ひがどうとか、まことに親切といふかそのおもてなしのありやうにまことに感心してしまひました。

 

いや、それはこの方ばかりではありません、向嶽寺に向かふ途中のこと、大きな柿の皮をむいてゐるお年寄りに話しかけたところ、皮をむいてゐた柿、それは百匁柿といふのださうですが、その干し柿の作り方を説明してくださり、八名の都會人は、ただただ、ああ、さうですかばかり。お別れには、ちよいとわけありなんでせうが、お持ち下されと、大きな柿さし出すので、否應なくいただいてまゐりました。いやその重たいこと、あとあとの行軍にさはりましたです。はい。 

甘草屋敷の方々といひ、ラーメン屋のおばさんといひ、飯島家のご夫人とひ、なんとまあ人懐つこいやさしい方々なんだらうと讃嘆の思ひをいだいて先を急ぎました。

 

塩山(しおのやま)の南麓に向嶽寺はありました。大きなお寺です。富嶽(富士山)に向かつてゐるので向嶽寺といふのださうです。でも境内には人ひとりをりません。池のほとりの紅葉がきれいなので、思はずGRⅡでカシャリ。

 

さらに、進んで、喘ぎながら、緩やかな傾斜のバス道を上りつめ、やつと惠林寺(えりんじ)に到着。その名だけはよく知つてゐましたが、なんと言つても武田信玄の菩提寺、實に 大規模なお寺でした。さう、くぐつた幾つめかの門には、『安禅必ずしも山水を須(もち)いず、心頭滅却すれば火も自(おのずか)ら涼し』 と記されてをりましたね。信長軍に焼き打ちにされた門がこの門であるかどうかはわかりませんでしたが、いたましくも剛毅なお寺としてこれからも名をとどろかせることでせう。ここには料金をお拂ひして大勢の見學人がみえてゐました。 

また、本堂の裏の庭園がすばらしい。開山夢窓國師築の國指定名勝ださうであります。ただ、柳澤吉保の墓があるのにはがてんがいきませんでした。ここでも全員集合寫眞を一枚。

 

つづいて放光寺。愛染明王が人氣のやうにお見受けいたしました。それと、この境内に、黒川金山慰霊塔が建ち、その横腹に彫られた、「鶏冠観世音菩薩縁起」には、黒川金山とその犠牲者のことが記されてをりました。黒川金山は武田信玄の軍用金をまかなつてゐたほどの金山で、のちには大久保長安の管轄にうつりましたが、犠牲者の數はいかほどだつたのでありませうか。その人足や遊女らの靈を慰めるために建てられたものでありました。

 

放光寺からは歸り道。途中までは來合はせたバスを利用し、笛吹川の左岸沿ひに南下しました。それで、山本勘助不動尊は通りすぎてしまつたのですが、このあたり、舊秩父往還のやうです。でも、言はれてみなけれなわからない農道で、そんなところに、常陽寺がありました。が、聖徳太子がお立ち寄りなさつたお寺であるとはおつたまげました! まあ、太子腰掛けの岩にぼくも座つてみましたが・・。

 

あとは歸り道、柿の木の果樹園を縫いながら、夕暮れ模樣の田園風景を樂しみながら、しかしちよいとしんどい思ひをしながらも、どうやら塩山温泉郷のはづれにある中村屋旅館にたどりつくことができました。 

幹事さんのはからいで、いいお寺と景色を堪能させていただきました。いや、今日さいごのご馳走は、温泉入浴後の夕食に出た馬刺しでありますね。自分は食べないといふ方からもいただいて、三人前を食べてしまひました。 

さう、今日は家を出てからは二〇〇八〇歩、塩山驛からですと、約一五〇〇〇歩でした。おやすみなさい。 

 

今日の寫眞・・高尾驛から乗り込んだ鈍行列車内にて。甘草屋敷前。柿をくれたおばあさんと。向嶽寺境内(これはホーム畫面でご覽ください)。惠林寺山門。放光寺の黒川金山慰霊塔。中村屋旅館の夕食。