十月十八日(水)戊寅(舊九月廿九日 晴のち曇り

 

今日は朝から部屋の掃除と片付けに追はれました。お晝に、獸醫さんに來てもらつて、具合のよくないモモタを診ていただくことになつてゐたからです。くしゃみといふか、げぼといふか、先日はぼくのひざのうえで大量の水をげぼしましたし、だいぶ氣になつてゐたからです。 

おとなしいモモタは、先生のなすがまま、注射を何本かうたれ、爪まで切つていただきました。かぜなのかぜんそくなのか、まあ樣子を見ませうといふことで歸つていかれました。これで、三度目の往診です。 

 

今日の讀書・・昨夜は、『紫日記』 につづいて、同じ笠間書院の影印本、『紫式部集 陽明文庫藏』 の文頭に番號をつけました。これも、山本淳子さんの 『源氏物語の時代』 に多く引用されてゐるからですが、影印本はどうしてあれもこれも暗號解讀待ち状態なんでせうかね。原文に手をつけないといふのはわかりますけれど、頭部の餘白に番號くらゐつけたつて、支障はないとおもふのですけれどね。まあ、それにしても、『紫式部集』 は内容的にもすばらしく、今まで眼中になかつたのが恥ずかしいくらゐです(註)。解説には次のやうにあります。

 

「この式部集を大きく貫き流れている心情は、孤愁感であり、憂き世・憂き身の感であり、無常感であり、宿世感であって、それらを概括すれば、「あわれ」の情感である」。と述べられてゐるのでありまして、紫式部といへば、『源氏物語』 しか知らなかつたぼくには、いささか衝撃的でした。 

幸ひ、小冊子ですので短時間で番號をつけられましたが、岩波文庫の定家本系とは、番號のつけかたが違つてゐて、ちよいととまどつてしまひました。 

 

註・・『紫式部集』  『源氏物語』の作者として名高い紫式部も、実名や伝記など詳しいことは知られていない。しかし、この集に収められた彼女のほぼ全生涯にわたる歌と詞書は、その勝気で聡明な少女時代から晩年までの生活や心情・人柄などを細かく感じとらせてくれる。紫式部研究に不可欠の一冊。 

 

ところで、その山本淳子さんの 『源氏物語の時代』 が讀み終はりましたので源氏に戻りますが、この本はすばらしいと思ひました。賞をとるはづです。 

『栄花物語』 や 『權記』、『紫式部日記』 や 『紫式部集』 などを援用しながらの叙述ですので、その原文が讀みたくなるように仕掛けられてゐると思ふのです。ぼくなんかすぐのつてしまふはうなので、それだけにいい勉強させていただけるし、視野が廣げられました。 

いや、それもさうですが、登場人物それぞれの心情がすばらしくよく書けてゐます。一條天皇の中宮定子さんへの愛情、中宮彰子さんの一條天皇への愛情とその成長、それに、淸少納言と紫式部の役割といふか、それぞれが仕へた中宮との關係の深さが、切なくなるくらゐよくよく描かれてゐます。

 

特に興味深かつたのは、紫式部が淸少納言を批判したことがよく問題にされますけれど、その眞相がわかつた氣がしました。 

「清少納言は、まことに得意顔もはなはだしい人です。あれほど賢ぶって、漢字を書きちらしていますが、その程度もよく見ると、まだまだ不足な点がたくさんあります。云々」(『紫式部日記』より、現代語譯) 

淸少納言は紫式部より八歳か九歳年上で、中宮定子さんの御抱へとして、すでに一條帝の後宮では有名人物でした。が、式部さんは、『源氏物語』 を書き出したとはいつても、地位も力もない今で言ふサブカルチャー作家にすぎず、自分が評價される仕事ができるかどうかは、お仕へする彰子さんの名譽にかかはるので必死だつたのではないか。生身の一女房が、負けるもんかといふことなんでせう。さもありなん、とぼくも思ひました。 

(さうしたら、積んであつた本のなかから、宮崎莊平著 『淸少納言と紫式部─その対比論序説』(朝文社) なる本が目にとまりました。これ以上間口を廣げられないなと思ひながらも、ちよいと開いてみました。) 

最後に、〈あとがき〉から。

 

「一条期に 『源氏物語』 が誕生したことは偶然ではなかった。一条、定子、彰子、それぞれの試練は、『源氏物語』 の精神を形作った原点でもあったと、私は考えている。だからこそ、『源氏物語』 を知る一人でも多くの方に、彼らの物語を知っていただきたい。本書はそうした思いで書いた」。 

 

さて、今週から、學習院さくらアカデミー 《源氏物語をよむ》 では、〈桐壺〉につづいて〈帚木〉の卷に入ります。で、今日から豫習に取りかかりました。「靑表紙本」で、十頁は讀んでいきたいと思つてゐるのですが・・・。 

註釋書は、同じく、小學館の日本古典文學全集と新潮日本古典集成です。もちろん、ばらして携帯便利にしてをります。 

 

今日の寫眞・・讀み終はつた山本淳子著 『源氏物語の時代』(朝日新聞社) と、影印の 『紫日記』 と 『紫式部集』。 

淸少納言と紫式部の畫像。それと、元氣がなささうなモモタ。