十月七日(金)壬戌(舊九月七日 晴のち曇り

 

秋晴れと思はれたので、今日も重い腰をあげて出かけました。ぼくの體力・氣力回復の爲の散歩は、どういふわけか、古本市通ひと重なつてしまひますが、まあ、一石二鳥といふことにして歩いてまゐりました。 

金曜日ですから、まづは神田小川町の東京古書會館に足を運びました。今日はその「城南展」です。早稻田通りに素敵な店舗をかまへる五十嵐書店も出品されてゐるはづです。案の定、棚を見ただけで五十嵐書店だなとわかる按配で、胸がわくわく、幾册もの掘り出し物を手に入れることができました。現在の關心はもつぱら「影印書」集めですから、當座必要はないと思はれるものまで求めてしまひました。 

その一册が、『可笑記大成 影印・校異・研究』(笠間書院)で、表紙を開いたら、編著者三人の自筆の連署で、「暉峻康隆先生 恵存」と記されてありました。先生は十五年前にお亡くなりになつてゐますから、ご家族が藏書を整理されたのでせう。ちなみに、先生のお名前は「てるおかやすたか」とお讀みになります。

 

*補足・・暉峻康隆(一九〇八~二〇〇一) 國文學者。明治四十一年生まれ。昭和二十三年から五十三年まで母校早大の教授。近世文學を研究。三十七年ごろ「女子学生亡国論」でマスコミをにぎわせた。洒脱な話術でも知られる。六十年第1回東京都文化賞。平成八年現代俳句協會大賞。平成十三年四月二日死去。九十三歳。鹿児島縣出身。俳號は桐雨。著作に「西鶴―評論と研究」「芭蕉の俳諧」「蕪村論」など。 

 

それと、『大東急記念文庫 善本叢刊 假名草子集』を見つけました。假名草子は、中世、近世の讀み物で、主に、插繪を多く含んでゐることが特徴のやうです。が、「さうし」といふと、ぼくはこれまであれこれ混同してゐましたので、ここらでちよいとまとめる、といふか整理しておきたいと思ひます。 

第一に、卷子本(かんすぼん)との違ひです。卷子本は、いはゆる巻物のことで、「さうし」は、綴じた册子のことを言ひます。 

その、「さうし」と言つても、いろいろと書き方が違ひます。さうし、草紙、草子、双紙、册子などですが、その違ひはあまり氣にしなくてもいいやうで、覺えておきたいのは、時代順、年代順にどのやうに呼ばれてきたかだと思ひます。 

ただ、一般的には、作品の多くは短編で、假名文の書物で、物語はもちろん、日記や歌書も含めるやうです。 

例へば、我が國初の評論といはれる鎌倉時代の『無名草子』(一二〇二年頃)や、『おもしろさうし』(沖縄・奄美諸島に傳はる古代歌謠〈一五三一年~一六二三年〉を集大成したもの)や、松平定信の隨筆である、『花月双紙』〈又は『花月草紙』〉などは固有名詞ですから決まりですが、その他は、これがややこしいのですが、いはばジャンルの違ひといふふうに理解したらいいかと思ひます。 

要するに、草子も、草紙も、短編小説集であることは變はりありませんが、もちろん、その内容は時代によつて違つてきます。順番にあげていきませう。 

 

御伽草子・・鎌倉時代末から江戸時代にかけて作られた短編の繪入り物語。多くは、空想的、教訓的、啓蒙的な老幼婦女むきのもので、總數三百編以上にのぼる。室町物語とも呼ばれ、主な作品に、「文正草子」、「はちかづき」、「物ぐさ太郎」、一寸法師」、「浦島太郎」、酒呑童子」、「俵藤太物語」等があります。 

 

假名草子・・江戸時代初期から、井原西鶴の『好色一代男』が出版された天和二年(一六八二年)頃までの約八十年間に著述刊行された、假名、もしくは假名交り文で書かれた、小説類で、新しい時代の一般庶民の啓蒙、教化、娯樂などのために書かれた。 

主な作品に、『仁勢物語』、『竹斎』、『恨之介』、『可笑記』、『東海道名所記』(浅井了意)、『難波鉦』ほか多數。その數約二百編。 

 

浮世草子・・江戸時代に生まれた前期近世文學の主要な文藝形式のひとつ。西鶴の『好色一代男』(一六八二年刊行)に始まり、安永・天明(一七七二年~一七八九年)頃までの約一〇〇年間、主として上方を中心に出版された。民衆の敎化、啓蒙を主とした假名草子に對し、遊里、芝居を中心に町人の世界を描いてゐる。好色物、町人物、氣質物、怪異小説など、その形態、題材も多岐にわたる。 

ただ、當時は「草双紙」と呼ばれ、後に、「假名草子」に對して、區別されて「浮世草子」と呼ばれた。 

京都の八文字屋自笑から出版されたものは、特に「八文字屋本」と呼ばれるが、創始者と言へる西鶴の業績が最も著名であり、江島其磧の『世間子息気質』『世間娘容姿』などの一部が有名であるに過ぎない。主な作品は、井原西鶴の作品のすべてと言つておきます。 

 

草双紙・・江戸時代中頃から流行した大衆的な繪入り小説本の總稱。各ページに挿繪があり、餘白に平假名の説明を添へ、童話から始まり、次第に成人向けに進化した。表紙の色によつて赤本・黒本・青本・黄表紙と區別し、長編で合册したものを合卷(ごうかん)と稱した。繪双紙。 

 

讀本・・江戸時代後期に流行した傳奇小説。寛政の改革以降流行し、文化文政の頃全盛となり、明治になっても活字本として流布し讀み繼がれた。上田秋成の『雨月物語』、曲亭馬琴の『南總里見八犬傳』と『椿説弓張月』など。 

 

洒落本・・江戸時代中期から後期にかけて、主として江戸で流行した遊里文學。「通」、「うがち」を主題に、遊里の内部や遊女、遊客の言動を、會話を主にして寫實的に描いたもの。寛政の改革で、風俗壊亂を理由に一時禁止された。山東京傳の『通言総籬』、『傾城買四十八手』などが代表作。蒟蒻本。小本。 

 

人情本・・江戸時代後期の文政年間から明治初年まで流通した、洒落本のあとを受けたもので、庶民の色戀をテーマにした讀み物。代表的作品は爲永春水の『春色梅兒譽美』で、女性に多く讀まれた。中本。泣き本。 

 

滑稽本・・江戸時代後期の戯作の一種。江戸町人生活を誇張、諧謔、機知をもって描く。主な作品に、式亭三馬の『浮世風呂』と『浮世床』、十返舎一九の『東海道中膝栗毛』などがある。 

 

 

 

 

以上、ぼく自身、だいぶ整理されました。すでに讀んだものが多々ありますし、讀みたいものが確認できてとてもいい機會になりました。

 

今日の寫眞・・神保町の通りのはづれにある、「成光」といふ中華そば屋さん。ここのラーメンは旨い。ご無沙汰してゐたので訪ねましたが、いつものやうに近所のサラリーマンでいつぱいでした。次回は、チャーシューラーメンを賴もうと思ひました。 

それと、神保町につづいて、八王子の古本まつりに行きました。京王線で行つたものですから、北口ユーロードですといふ會場がどうしてもわからず、あちこちだいぶ歩いてしまひました。三人の人に聞きましたが、はじめのおばさんは、とんでもない方向を指さしたので、それで迷つてしまひました。人には賴るのをやめて、地圖を早く見て探せばよかつたのであります。そのあげく、やつと探しあてた、八王子〈西放射線ユーロード〉で開催中の「八王子古本まつり」。 

さらに、横濱線で町田まで行き、柿島屋の馬刺しを食べて歸路につきました。